BOOK 1過去へ旅する
OVERVIEW
人が大切にしている宝物は、価格ではなく、そのモノにまつわる記憶や思い出や心の中で大切にしておきたいもの、忘れたくないものを託されていることがあります。
今回、東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程の学生の皆さんのご協力の元、家族と宝物にまつわるエピソードを募り、その中から2つの家族のストーリーにスポットをあて、脚色・演出し、制作しました。
家族の宝物がモチーフとなり、自分の知らない記憶の旅へと誘います。
展示作品
そこにいた青年は祖父だった-
祖父の家にある何冊もある分厚いフォトアルバム。
記憶にある風景や、記憶にない出来事まで、アルバムにはたくさんの写真がおさめられていた。
大切な写真とともに、祖父の思い出、家族との思い出を辿っていく。
アルバムをめくるたびに蘇る当時の記憶、だれしもが持っているそんな経験を本の中に表現しました。
ストーリーは、膨大な写真の中から「特に記憶に残っている思い出」をおじいさまに聞いていただき、そのお話に感想を交えてこちらに伝えていただきながら、紡いでいきました。佐藤さんが初めて知るエピソードもたくさんあったようで、まさにアルバムを通じた「過去の旅」をしていただきました。
演出は、効果音やアニメーション、映像を組み合わせ、ページ毎に異なった驚きがあるよう構成しています。結婚式のページでは、白黒の写真に映像で色をつけていくことで、忘れかけていた記憶が鮮やかに蘇っていく様子を表現しました。
また、本の中に文章で出てくる「福寿草」は桜の一種です。人物中心のアルバムの中でひときわ目立っていたのがこの写真でした。
クライマックスは、桜の成長とともに積み重なってきた家族のあたたかなひと時を感じていただけるような演出としました。
父が大切にしている宝物たち。
そのひとつひとつに、一体どんな思い出があるのだろう。
宝箱の中に眠ったままの小物たちが、父の思い出のエピソードと共に動き出す。
わたしの知らない父の思い出が詰まった宝物図鑑。
大里さんが最初にお父さんの宝物として教えてくれたのは「黒電話」でした。
お話を伺っていくと、お父さまの「宝箱」には、他にもたくさんの宝物があることが分かりました。
日常的に使っていた思い入れの深い宝物たち。
その魅力を表現するために、エピソードを説明文として添え、ページを開くと宝物たちが動きだして自らをアピールする図鑑をつくることにしました。
宝物たちの動きは、ストップモーションアニメーションです。
社内のプロジェクタースクリーンを白バックに、少しずつ角度を変えながら撮影したものをつなげています。
宝物たちが楽しんで見えるよう、コカ・コーラのキーホルダーはファッションショーのモデルのように、ヨーヨーは袋や紐を蹴散らして主張するなど、それぞれにストーリーを作って撮影しました。
黒電話は、独特の美しいフォルムをじっくり楽しんでいただけるよう、様々な角度から撮影しています。
照明を調整する黒いレフ板は、実は社内にあったちょうどいい大きさのタイルカーペットを使っています。
BOOK 2現在を旅する
OVERVIEW
文化や価値観が膨れ上がり多様性の受容が求められる現代。
多様性の受容とは、個性が放射線状に広がっていくのではなく、互いの違いを容認すること。
触れあい、交わりあい、混ざりあい、離れて、また他へと不純物だったモノをバトンしていくこと。
文化も、価値観も、人も、それぞれのアイデンティティが変化しながら共鳴すること。
さまざまな解釈が可能な現在というテーマで、近代からたった今この瞬間まで多様性の容認を形作ったさまざまな現在を、触れ合い、混じりながら旅をしましょう。
展示作品
誕生から最後は個人へと、現在の文化、価値、社会、人、モノに触れる旅を独自の世界観で表現。
時代背景を象徴する被写体から描かれる映像インスタレーションをご体感ください。
デジタルとアナログが混ざっていっている現代において、紙に印刷したものにデジタルなモーションを融合させることは、まさしくそれを体現したツールだと思います。
コンテンツはそんなテーマからヒントを得て、近年大きなテーマとなっている「多様性」を主軸に置き、過去と未来が現在を起点として「その前・その後」という面の概念に対し、現在だけはまさしくその瞬間しか無い点という特性を踏まえて、「現代とはいつなのか?」をもうひとつのテーマにして、ストーリーを構築していきました。
多様性を考える上で、「否定」という存在が薄くなり、受容や容認というのが当たり前に変化している部分も「現在」はあると感じていたので、表現する世界観もどんな人にも受け入れやすい普遍的なものでなく、あえてエッジの効いたアーティスティックの方がふさわしいと考えて調整していきました。
デザイナーもそちらに長けている方でしたので、面白い世界観になったと感じています。
一方、デザインを考える上では、多様性をテーマに、どんな人でも楽しんでいただけるようにあえて文字は一切使わず、最低限の記号だけでデザインを制作し、文字や言葉を一切使わずに物語とメッセージを表現することは非常に苦労しました。
「多様性とはなにか」「現代とはいつか」という大きすぎるテーマに、デザイン制作もモーション制作もサウンド制作も方位磁石のない旅でしたが、なんとか手探りで形にすることができました。
BOOK 3未来に旅する
OVERVIEW
未来を描けるえんぴつがあったとしたら、どんな未来を描きたいのだろう?
想像することが実現するのが未来だとしたら、楽しい未来を創造出来たらいいのにな。
「未来の惑星を創造してみよう」というテーマのもと、Google formでアンケートを募り、寄せられた様々なコメントやアイデアをヒントに、ストーリーを構成。
未来世界の惑星をイラストと映像で表現しました。
想像の未来を旅してみましょう。
展示作品
「あ、サーカムポットは知らないんだっけ?これは未来の乗り物なんだよ!」
エディオくんは、ずーと、ずーっと先の未来、地球のようで地球でない広ーい広ーい宇宙のどこかの惑星に住んでいます。
未来の乗り物“サーカムポット”に乗って、エディオくんと冒険の旅に出よう。
アンケート項目は全部で23項目。
未来の家や乗り物などの対象物から、発明品や食べ物、ストーリーの軸になる“サーカムポット”はどんな乗り物なの?など様々な質問に、世代の異なる50名以上の男女に答えてもらっています。全て文章で回答する形式にしたため、ひとつひとつの回答コメントから、柔軟にイメージを膨らませていくところから取り掛かりました。
そこからジャンルごとにコメントをソートし、惑星の全体像を構築。
シナリオの骨組み、世界観の方向性、絵おこしを丁寧に紡いでいき、明るく楽しいおもちゃ箱のようなBOOKとして、読み進めながら誰もが楽しめる、わかりやすいストーリーとしました。
未来をテーマにすると、どこかSF要素が強い“近未来感”を想像しがちですが、読者に“親近感”を感じてもらえるような、キャラクターを中心とした絵作りと世界観がこのBOOKの脚色のポイントです。
全てのコメントを採用するのは困難でしたが、“バラバラバーン”“ウッドラン選手権”“瞬間移動ヘッドセット”など、回答コメントそのものを採用してシナリオに取り入れているものもあれば、そこからインスパイアして創造した建物やキャラクターも可能な限り描いていくなど、ナレーションで読まれていない背景の絵にいたるまで、様々なエッセンスを散りばめています。
演出のポイントは、動きのあるものや透明感のあるものを映像にし、実際の印刷との重なり・マッチングを意識して作り込んだところです。また、一箇所ではなく様々な場所に動きをつけることで、街の中でそれぞれが過ごしている雰囲気の演出と見応えのある映像効果を狙いとしています。ちなみに表紙のデザインにも登場し「おいでおいで」と手招きしているエディオくんというキャラクター名は、おいで(oide)のアナグラム“edio”からきています。