中目雑記
竹内所長のカンケン流照明プランニング術。新人所員が実践を通して「ひかりのレシピ」に挑戦!

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レシピ10:アマデウス 2006年01月25日 11:14

シャンデリアの再現



天才作曲家モーツァルトの生涯を、秀才サリエリの目で描いた大作映画「アマデウス」は、シナリオの素晴らしさはだれもが認めるところですが、それ以外にも18世紀のウィーンの時代考証がとても精緻なことでも大変優れた映画です。

中でも照明の扱いがとてもすばらしい。電灯のない時代ですから、当然「たいまつ」や「ろうそく」が中心となります。映画ではそれらの使われ方を正確に再現しています。



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たとえば皇帝の前でモーツァルトがオペラを初演するシーン・・・開演前、天井からシャンデリアが次々と床近くまで下げられ、一本一本のろうそくにつぎつぎと火を灯していくシーンがあります。そしてやがて灯し終えるとシャンデリアが一気に引き上げられて、場内は華麗な劇場空間に様変わりします。

演奏が終り、皇帝が拍手しながらモーツアルトに歩み寄る場面では、シャンデリアが低い位置まで降ろされてきて場内が≪あかるく≫なります。

数百本のゆらめくろうそくの光が、当時のウィーンの洋服、装飾品を美しさを≪輝き≫として見事に引き出しているのも観察できます。

モーツァルトが生きた時代より50年ほど後の時代を描いた映画「赤と黒」(スタンダール作)では、シャンデリアの点火に導火線が用いられている様子が再現されています。

召使がパーティの始まる直前に、導火線の端に火を点けると、火はたちどころにシャンデリアにあるろうそくをらせん状に駆け上がり、一瞬のうちにすべてのろうそくに火が灯る様子がきちんと描かれています。



五感を研いで

リアリズムだとか、そうでないとかとはまったく別の次元で、「スイッチをポンと押して部屋を明るくする・・・」のと、「火種を慎重に運んで行灯に火を灯す」のとでは、おのずと人間の行為や会話、間、しぐさ、さらには考え方までが変わるはずです。

照明に限らず、人間は光、音、熱(温度)、水など、環境の基本的な要素に左右されて生きています。そんな中に生きている人間模様を描く映画を作るには、それらの要素をひとつとしておろそかにしては成り立たないはずです。

DVDが発達した現在、ぜひ、ひとつの映画を、自分の興味のある環境要素に着目して、最初から見直して観る、というのはいかがでしょうか?



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竹内 義雄

レシピ9:茶室の明かり採り 2006年01月11日 16:14

千利休は、超一流の建築家



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写真は表千家の茶室「不審庵」です。

茶道の心得がなくても、茶室と言えば土壁と竹、曲がった自然木の柱でできていて、いくつかの障子があって、少し薄暗くて、侘び寂びの幽玄な雰囲気をイメージされる人が多いと思います。

このように一般的にイメージされる茶室は、千利休によって創作された≪草庵風の茶室≫に源を発していて、たぶん世界で最も小さな建築空間だと言ってよいと思います。



千利休は茶の湯を芸術の域まで高めた天才茶人で、茶道具のデザインは言うに及ばず、茶室全体、さらにそこへ導く庭に至るまでの環境すべてを創意工夫したスーパーバイザーでした。

わずか2畳弱(一畳台目)から4畳弱(三畳台目)の空間に大人が2〜4人、時間にして2時間、程よい緊張感と快適性を併せ持って過ごせる舞台をつくった千利休は、茶人を超え、インダストリアルデザイナーであり、建築家であり、環境デザイナーとして世界にも類を見ない大天才だったと思います。





多窓建築



千利休の茶室で、際立った特徴のひとつが光の扱い方です。

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草庵風の茶室のマドは独特で、外から見れば土壁の一部に穴が開き、土壁の下地である竹格子が見え、中からは障子がはめ込まれています。


日本建築のマドのイメージは、

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この桂離宮の写真のように柱と柱の間に襖や障子を建て込んで、それらを開け放すと柱しか残らない、という造りです。これは「窓」という漢字を当てるよりは「間戸」という漢字を当てはめた方が適切です。

「間戸」が日本建築を代表するスタイルだとすれば、壁に穴をあけたマドは西洋建築的で、「窓」という漢字が当てはまります。
「間戸」が一般的だった時代にあって、草庵風の茶室のマドは、壁に穴をあけた「窓」だったというのが特徴です。

今の日本の家屋では、四畳半や六畳間あたりが最も小さい部屋ですが、その部屋には窓は1つ、角部屋であれば2つぐらいあるのが普通です。

草庵風の茶室はそれよりも、一回りも二回りも小さいにもかかわらず、7つ〜9つもの窓があります。



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これらの窓はすべて障子が建て込んであって、外の景色を眺める窓ではなく、明かり採りが目的です。

千利休が幽玄な世界をつくるために、いかに苦心したかが、窓の数と、配置から伺えます。



スカラー照度



千利休は一体どのような光が欲しくて、たくさんの小窓を開けたのか、調べたいのですが、普通の照度計では測れませんので、1960年代にイギリスで考案されたスカラー照度(ピンポン玉のような受光面を持った照度計で、空中の光を立体的に測定したもの)を使って、茶室の中の光を測定してみました(実際にはコンピュータによるシミュレーションです)。



千利休が建てた初期の「四聖坊」から完成の域に達している「今日庵」「不審庵」まで6つの茶室の様子を調べてみました。

図は、茶人のちょうど顔が位置するであろう、畳の上から90センチの高さだけを取り出して光の分布の様子を描いています。



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年代が古いものから順に上から並べてあります。初期の茶室は、光の分布が単純な一方向へのグラディエーションになっているが、晩年のものは2つの部分に光が分かれているのがわかる。極小の今日庵では、炉の上部がもっとも明るくなっています。





人が主役の明かり採り



≪あかるさ≫、≪景色≫、≪輝き≫、≪モデリング≫という4つの要素を、草庵風の茶室に当てはめてみると、不審庵の光の分布が特徴的で、ちょうど亭主の顔が当たる場所と、客人顔の部分がまるでスポットライトが当たっているかのように明るくなっています。人の表情や茶道具への≪モデリング≫が中心なのだろうと思われます。



竹内 義雄