村井徹/監査役 セイコー株式会社を退職後、経営コンサルタントに携わり、現在、当社の監査役等を務める。
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ーものづくりの心を探るー
今回はシリーズ最終版として、欧州の一流品の真髄を旅します。 欧州の工芸博物館や老舗を訪ねると、一流品とは何かについて考える動機づけをもたらします。欧州は18世紀に産業革命が成功し、乗物は馬車から鉄道へと旅が広がり、さらに蒸気船による異国への旅へと拡大しました。また様々な産業技術を振興するため、1756年からロンドンで始まった博覧会は、多くの人々に製品や技術を提示しました。そのコンテストで「エルメス」の鞍が銀賞を獲得して名声を博し、事業発展の基盤になりました。20世紀に入り、博覧会は世界の文化や芸術を紹介する場へと変わり、こうした時代にアール・ヌーボーやアール・デコの時代が始まりました。 かつては王侯貴族に支持された馬具類を中心とする皮革、繊維製品などは、職人の手によって造られ、20世紀には愛用者数も増え、それらをステイタス・シンボル、逸品、一流品と呼称しました。
今や航空運賃の自由化により、日本では海外高級ブランドが依然として根強い人気です。また同時にブランド購買者層の低年齢化が進み、一部の大人たちは顔をしかめる現象まで起きています。彼女らはロゴマークが人と違うもの、あるいは人と同じものを持っていることを記号として捉えているのでしょう。しかしブランドには2つあります。1つは“ファッション・ブランド”で、もう1つは“本物のブランド”です。前者は今のモードへの提案に追従し、当然このブランド名に高い対価を支払い、その最たるものがライセンス商品で、その他にプライベート・ブランドがあります。この種の商品は季節向で定番商品として流通する保証はありません。一方、もう1つはどんな時代でも生き残れる確固なものを目指して造られるものです。それは素材を吟味し、高度な技能を駆使して徹底的にこだわる製品です。従って職人技が発揮され、数量も限定され、より高価格になります。 私なりの欧州見聞録から、一流品の定義を3つに要約します。 (1) よい仕事が施されていること−材料を吟味し、工業製品であっても工芸品の風合いがある。 (2) 仕事の仕組みが堅実であること−目に見えない箇所にも工夫と技能が生かされている。 (3) 使い勝手が良いこと−使い勝手が良いうえにデザインが洗練されている。
次に代表的な一流品を5つ紹介します。 (1) エルメス 1837年創立、馬具職人から出発し、50年前から販売されている“ケリーバック”はステッチ技術が生かされ、製作の前段取りの皮選び、寸法取りなどに4日を要し、1人の職人の手で1ヶ当り18時間の手作業をする。当製品は仕上、耐久性も良く、使う人柄にもなると言い切る凄味があります。一流品とは相対するものの寡黙なやりとりから創出される価値です。 (2) ルイ・ビトン 1883年、荷づくり用木箱の職人がナポレオン3世の后妃の旅行用衣装箱を受注して有名になりました。頑丈さ、軽さ、鍵の独創性と持ち運び易さに特徴があります。軽さと耐久性は相反するものの、その矛盾を克服したところに製品の本領があります。また鍵は固有番号で登録され、100年経ても常に鍵は購買者に1つという考えで、本当の作り手と客との関係を大切にする証です。 (3) ロエペ 未だ三越から日本に紹介される前の1980年頃に、私が旅行中にマドリッド本店で出会って、半日間店主から話を聞きました。1846年、ドイツからスペインにやって来たロエペが革製品の工房を開き、職人技術を確立しました。スペインはアラブ文化が現代でも生き続け、現代の中に伝統を生かし伝統の中に現代を反映させることで、普遍性とは無個性でないことを実証しています。包装紙や紙袋にも、画家たちがセビリアの土を呼ぶ暖かく、ほんの少し哀愁を感じさせる色調が使われています。 (4) フォックスとブリック 両社共、手作りの傘メーカーです。傘はエジプトやペルシャの壁画にも描かれるほど長い歴史があります。いわゆる日傘でした。雨傘は18世紀になるまで習慣はなく、最初は紳士がステッキ代わりに使用。1853年、従来の鯨骨に代えてスチールを採用し、絹をナイロンに変更しました。英国人の気質の面白さ、あるいは発想の原点は、雨という気候にどう付き合い、戯れるか遊ぶかにあります。また両社はスポーツウェア、社交服など優雅なライフスタイルを伝統主義の考え方から製品化しています。 (5) ジョージ・ジェンセン 1866年、コペンハーゲンに生まれた彼は真鍮細工、彫刻、陶器の職人を経て、装身具の銀細工師になりました。美しい日用品をつくり出すことに専念し、材料質を生かす、形が美しい、使い勝手がよいを追求しました。過去に米国企業が買収しようとしましたが、国民と王室が反対し、現在はロイヤル・コペンハーゲングループに属しています。 まだまだ多数の世界一流品がありますが、日本にも陶器の「大倉」靴の「吉田」手作り万年筆の「大橋堂」などがあります。
村井 徹