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情動知能ー喜怒哀楽の捉え方ー
私たちは日々、喜び、悲しみ、怒り、恐れなどといった何らかの情動の波に浸っています。自分の内から発する情動、また他者から浴びせられる情動もあります。“情動”とは喜怒哀楽に代表されるように引き起こされた感情の動きで情緒です。この情動現象は微妙で多面的な性質をもっているために、定義づけは十人十色です。一般的に内的情感、すなわち心の内面で感じる気持の違いによって区別しているのが実情です。従ってこの内的感情の質や程度は主観的であるために、客観的測定の対象としたり指標化はできません。
一方、“感情”とは上述の情動の他に、人を何らかの行動に駆り立てる各種の欲求ム空腹、睡眠、披露、休息など−を内包した広義な概念です。欧米流に言えば、記憶や推論の認知領域では捉えにくい一切の心の働きを含みます。
西欧哲学の伝統では人間を理性や英知で捉え、情動は動物的で理性をかき乱すものと見做されていました。18世紀のカントは「情動を精神の病」であるとまで断言しました。東洋でも仏教は情動とは自己や物質にとらわれの結果生じて、本来そこから脱却した域に人間の姿を仮定しました。その後20世紀初、フロイトは情動と理性は不可欠に結びつき、相互に支え合うものだと考えました。
また文化論では、西欧社会は個人の人格、特性を重視し、対人関係で不変的な自己を貫こうとする文化、あるいはその人固有の要求、目的、権利を第一に追求する文化です。それに反して日本を含む東洋社会は個人の権利、目的よりも、個人間の関係性維持、確立に力点を置き、他者との関係で相対的に自分を位置づけようとする文化に概ね区分できます。
ビジネスの場で、心理学の視点から注目されている情動知能・感情能力を意味する言葉として“EQ”があります。これは米国のサロベイ・メイヤー両博士の理論を1995年にタイム紙が発表。翌年日本で翻訳本が出版され脚光を浴びました。
ビジネス社会での成功要因は、いわゆるIQが高い人材と言われていますが、IQが一定の役割を果たしていることは間違いないものの、それとは別にEQという自分の感情の状態を把握し、それを管理調整するだけではなく、他者の感情の状態を知覚する力が有力視されています。企業組織は人と協働したり、人を支援したり、部下を育成したりすることが不可欠です。
曽つては心理学の世界で、情感の定義や実証分析などの研究があっても、情感そのものを利用することが能力であるという視点からのアプローチはありませんでした。ここ10年余、EQは心理学の1領域として広く認知されています。
EQはIQときわめて密接に結びついて、相互補完し合う関係にあります。端的に言えば、EQ活用がIQを生かし、EQ利用なくしてはIQも十分に生かせません。コンピュータにたとえれば、オペレーション・システムとアプリケーション・ソフトのような関係です。どちらか一方だけでは完全でありません。
私たちの思考や行動は感情によって左右されます。対人コミュニケーションでEQを発揮する場合、自分自身のその時の感情を意識的に把握しなければ、自分が相手に何故今のような態度をとったのかを判断できません。つまり自分の感情を認識できません。人は何かを感じたり、ものごとを思考するとき、言葉にして考え認識します。例えば楽しいと感じたとき、人は自分の笑い顔を思い浮かべてそう感じるのではなく、楽しいとか面白いという言葉を思い浮かべて自分の気持を認識します。この感情の識別を高めるには、感情を表現する言葉をできるだけたくさん知ることも重要です。多く知れば知るほど、自分や他者の感情をより正確に識別し、表現の幅が拡大します。この他者の感情を認別することが、良好な対人関係を維持するために欠かせない能力です。今回は言及しませんが、部下育成のコーチングを実践するスキルは、EQの応用です。
次に学問上の情動研究について触れれば、1991年ラザラウスによって提起された「構成要素的情動論」があります。情動の1つひとつを認知することにより、表情の文化に共通した近似性を文化間の差と整合性を求めるものでした。これは従来の進化論的・社会的・文化的情動論の延長上に位置します。人間の情動が他の生物に較べて複雑かつ多様であり、情動を構成する15の要素ム怒り、不安、恐れ、罪、悲しみ、羨望、嫉妬、嫌悪、喜び、誇り、安堵、望み、愛情、同情ムを基本単位とし、それらが状況に即して可変的に柔軟に結びつくと仮定し、情動の多様性を解明するものです。この研究は未だ緒についたばかりで推論の域にあり、今後の実証的な裏づけが進み画期的な論理となりましょう。
最後に現代の人格特性に言及すると、大人になっても喜怒哀楽のなかで、喜と楽の感情は容易く認知して表現できるものの、怒り、悲しみや寂しさといった不快感情は未分化で適切に処理できず、抑圧・回避したり、相手を攻撃して怒りを発散するだけです。まして、他者の視点に立って、その考えや感情を想像したり、共感するイメージが難しくなります。注目したいことは、心の発達の未熟さは心の中にある葛藤や苦悩などを整理して、一筋の文脈ある表現、つまり言語化のスキルにも支障をきたしてしまうことです。
個性は他者とのコミュニケーション・やりとり・関係を通じて磨かれるものの、人格も他者との関係で成り立ちます。没個性は顔のない社会からも孤立し、調和を乱します。
村井 徹

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