村井徹/監査役 セイコー株式会社を退職後、経営コンサルタントに携わり、現在、当社の監査役等を務める。
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仕事・忙中閑あり(その24)
2年間にわたり記述しました当該シリーズの最終回のテーマは「企業価値」です。 直近3・4回にわたって記述したとおり、企業の合併・買収への関心が一段と高まっている背景には、事業の選択と集中で競争力をつけようとの意識が強いからです。資本移動を伴う、あるいは伴わない企業提携であろうが、どんな場合でもカギを握るのが、“企業価値”の算定です。そして企業価値が経営の中核に位置する時代になっています。企業価値を高める経営手法は多様であると同時に複雑に絡み合っています。
企業価値を高める巧拙が企業の競争優位性を決定することになります。通常この価値は大雑把に言えば、株式の時価総額に反映されると捉えられます。しかしそれほど単純ではなく、次の3つの視点から把握していく必要があります。 1.企業の知的財産 企業が所有する財産のうち、B/S上では有形資産と無形資産がありますが、1980年代までは有形資産の多少が企業価値を決める要素でした。しかし90年代以降、無形資産がより大きな要素となっています。すなわち価値創造の観点から見れば無形資産としての工業所有権、ソフトウエア、ブランドなどです。 2.企業のあり方・生き方 企業の社会的責任(CSR)に対する関心が高まるにつれて、利益志向だけではなく、企業の社会的・環境的要件から捉える傾向があります。利益志向という経済的価値だけなく“利益の質”ともいえる社会的・環境的価値の維持・向上のためにどのような投資を行っているかです。このことは企業の生き方そのものが問われる時代の到来です。 3.IR活動 狭義には広報活動ですが、企業を取り巻く利害関係者に対してコミュニケーションに創意工夫を凝らす必要があります。企業の対外活動や企業内で革新・改善があっても、それが利害関係者に伝達されなければ、企業価値に反映されず効用を伴いません。IRに対する期待が上がって、サイトのブログを含めた情報を適時、適切に開示することで市場へ連続する情報が提供できます。
企業価値に関連して、“企業イメージ”という概念があります。簡潔に言えば、イメージの源泉である“商品・サービスの企画力”と“商品・サービスの優位性”の観点から、“顧客満足”と“社会貢献、倫理性”を判断します。従って企画力や優位性を向上させるためには、企業内の体質転換、自己革新、人材の育成・活用や財務力が問われます。
最後にこのシリーズを総括して、今後の企業に求められる要件を3つ要約しておきます。 1.事業活動に俊敏さを 事業サービスのスピードを上げるために、組織を簡素化して管理者の意思決定に権限を委譲することです。 2.自前主義からの脱却 自社内作のこだわりから脱して、人材、技術などを外部から極力調達するネットワークによるアウトソーシングが益々重視されます。そういった仕組みづくりにより、事業活動のスピードも高まります。経営トップが“企業提携”にどう取り組むかがカギです。 3.現場主義の徹底 現場を重視する経営は効率性を生みます。要は何かが起きれば、経営トップが現場に入って確認し手を打つことは、どんな構造改革の議論を机上で行うよりも大事であり、仕事の基本です。 (完) 来月からは新シリーズとして『ものの見方・考え方』を1年間の予定で出稿します。
村井 徹
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−働くのも、退くのも自由な社会の到来−
人口問題研究所によれば、日本は1996年20歳代の人口と65歳以上の高齢人口は総人口の15%づつでほぼ同じでした。20年後の2015年には前者が9%、後者が25%を超えて、人口の4人に1人は高齢者、若者は10人に1人弱になります。日本の高齢化は世界一で、2倍のスピードで進んでいますが、この高齢化と少子化は当に経済発展の結果としての現象です。
日本で年功的賃金が労働者に適用されたのは1920年で、普及したのは戦後高度成長前期でした。ピラミッド型の人口構造の下で、若いときは賃金は安く中高年になってから高くなるこの制度は企業の賃金水準を調整するうえでも好都合でした。 終身雇用制も勤続の長い年長者を管理・監督職にするという年功的な処遇でした。すなわち能力開発のあり方は専門能力を磨くというよりは、その企業での管理職になるための能力を高める方向に導き、定年到達時に専門能力で貢献できない従業員になる弊害が一部の特殊技術者を除いて実行されました。その結果、雇用を延長しても仕事面で貢献できる最新の専門能力を磨いていないために、賃金は定年前水準に比して約50%と低下しているのが現状です。 今まさに年功賃金処遇制度は大きく変容し、学卒から定年まで長期雇用を保障できないため、既に退職金制度廃止も大中企業を問わず実施されています。
市場動向を長期的・構造的に捉えれば、経済の枠組みを規定する産業・技術構造や人口構造に大きなトレンドがあります。 付加価値競争時代とは、企業規模重視ではなく小さな企業でも大企業に伍して競争できます。企業にとって必要な人材は付加価値競争に貢献できる市場センスや専門知識に優れたプロです。つまり情報通信の進展とあいまって中間管理職の存在意義も急速に低下し、管理職中心からプロ中心へと変わりつつあります。専門能力で企業に貢献するには、若い人たちと一緒に、その能力に応じて仕事をすればよく、その時々の貢献に応じて賃金を受け取ることになります。当然加齢とともに仕事こなす能力が低下するなら、それにつれて賃金は低下します。最先端の知識技術を生かす人材は、この傾向が強く40歳代前半までを年齢限界にしています。欧米では加齢してもプロとして活用する仕組みがあり、技術者能力に年齢限界しない気運があります。このことは技術者に限らず、文系の専門能力でも、人材の年齢限界をなくしていく傾向があります。 次に年俸制の導入ですが、年俸制とはあくまでも個人のその年の成果を基準に支払われます。その成果を上げるためにどれだけ長く働いたか、どれだけ効率的に短時間で達成したかを問いません。勤務時間の長短に関係なく、そのセンス(先見力、企画立案力など)や専門能力を発揮して、よい成果を上げれば高い評価が得られます。これは従前の労働時間という時間軸からも、過去、未来という時間軸からも自由です。 このような雇用環境になると、注意すべきことは現企業でしか役立たない専門能力だけではなく他企業でも役立つ専門能力を開発していなければ転職は益々難しくなります。非年功的賃金は生活費とは無関係に貢献度・能力に応じて支払われ、働き盛りに必要よりも多くの賃金をもらう可能性がある一方、中高年期に賃金は必要に満たない可能性もあります。
現役時代に一生懸命働いて老後は年金で悠々自適という先憂後楽型は1990年代までの職業モデルでした。世論調査では、60歳代前半まで働きたい人が75%、70歳までが60%です。日本は就業意識が世界の中でずば抜けて高くありますが、加齢してもその意欲を現実味あるものとするために、若いときから自分に投資して、仕事能力を向上させる人的資本投資が必要です。企業にとっても年齢に関係なく専門能力を活かして第一線で活躍する場を提供し、賃金はその時々の貢献や仕事能力に応じて支払うという仕組みであれば、高コストになりません。 これからは、企業は必要な人材を外部から採用するニーズが高まります。また現有の従業員も能力を活かせる職場転移が多くなります。退職金制度の撤廃は、自己都合も会社都合の区別をなくし、離職抑制の役割も失せました。従業員にとっても退社や引退の自由が確保できます。 米国では年齢差別禁止法があって、日本も将来定年退職を廃止するかもしれません。そうであれば、企業は退職管理手法として従業員の自発的退職を促す、あるいは従事できない装置を持つことになりましょう。 出口の定年と入口の就職を新卒である必要性は失せて、賃金が貢献度に支払われれば、個人にとって中途で、転職でも不利になりません。この雇用の流動化がいつから働き始めるのか、いつ引退するかは自由選択です。 曽つての産業社会・工業社会は、規模の拡大を目指し、人々を大組織に吸収しました。自営業や農業でいるよりも、組織の一員で規模の経済性の配分にあずかることで人々はより高い生活水準を得ました。しかしポスト産業社会と言われるように産業構造や雇用構造転換の流れにあって、経済のソフト化・サービス化の動きがより顕著になり、アウトソーシング(業務外注)が進んでいます。さらに専門能力をもつエキスパートが益々重要視されています。サービスを売りとする自営業の復権も注視したいところです。