村井徹/監査役 セイコー株式会社を退職後、経営コンサルタントに携わり、現在、当社の監査役等を務める。
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ー文系思考と理系思考ー
私は経済、経営、法律を主軸に研究開発や技術から経営を捉える技術経営(MOT)に携わってきた経験から、文系と理系出身者と数多く共同作業をしてきました。今回は両者の違いについて記述します。 大学教育の仕組みが文系と理系に人為的に大別され、そのことにこだわりが強くなると知的研究を狭量化する弊害も生じます。現代社会は高度な科学技術と経済力を結びつけて、経済社会を建設し運営されているからです。情報科学を取扱うIT分野では、文系文化と理系文化がクロスする典型例です。またものの見方・考え方でも、クロスしている人の方が面白味があり、心理学者河合隼雄氏は数学出身、精神科医中井久夫氏は法学出身です。元来、人にはテリトリー化してしまう不思議さがあり、ここでいうテリトリー化とは専門をつくって自分の権威なり体制を守ろうとするやり方です。そのために体制の中では自由であるものの、外のところには口を出さない関係を保ち、一種のなわばりになります。そもそも人は保守的であり、何か新しいことをしようとするとき、現在のテリトリーを維持したい気持ちが働きます。当に建前と本音の違いです。新しい提案や行動についても今の若い人も含めて自分のテリトリーや利害関係を考えて敏感に振る舞います。 もう1つ言えば、文系は情報を素直に受け入れたり、理論を素直に信じ易い一方、理系は観察し、仮説を立てて実験し、その結果の良否で判断を下す発想です。
理系思考で企業経営を考察すると、経営とは価値を創造する活動であり、科学的論理的に行い、そのプロセスはビジョンと意志決定の繰り返しであると要約できます。 経営は(1)限られた資源をある事業に集中し、問題解決と意志決定を行うことから、(2)理論、要素技術、数学解法などにより総合作業する、(3)工学の設計学に類似すると規定できましょう。 前述のように捉えれば、経営や管理に対するものの見方・考え方で基本的事項は、問題解決とシステム思考にあります。 1. 問題解決 優れた経営を支えるために、現状を定量的に理解し、目標達成に必要な課題を解決するのが問題解決であり、次の3つがあります。 (1)経験法 個人の実績を積み重ねたデータベースにより、何らかの解決を生みだします。ただし時代変化や状況変化が伴う場合には無力である。 (2)論理法 信頼性や発展性も高く、インフラを有効に活用して分析、モデリングやシミュレーションを行う。 (3)直感 一種のナレッジ・マネジメントを無意識に持つ人で、経験の蓄積と整理整頓による論理です。この直感や暗黙知は無意識の論理による場合が多くある。 2. システム思考 見方が変われば見えるものも変化します。すなわち価値の置きどころ、経験、知識といった要素により異なります。システム思考で留意することは、ものを形づくっている有機的な関連性を捉えるために次の4つがあります。 (1)部分相互の関係 目的と手段、尺度、波及効果など (2)構成要素の機能 ハードとソフト、シミュレーション、フィードバックなど (3)全体構造 内部と外部、質と量、適正規模、集中と分散など (4)変化過程 学習と適応、制御と最適化、不確実性など 次に経営者を類型化すれば、経営者に文系も理系の区分はないものの、企業実態を調べてみると、理系出身の経営者にはビジョンとコンセプトの能力が高い人が多く、文系出身者には的確な意志決定と行動力の高い人が多いようです。また論理的な問題解決力で経営者になれる人は優等生タイプに多いようです。前回のコラムで指摘したように経営者にも状況に合わせてIQとEQをどうバランスよく組み合わせるかが肝要です。たとえばモチベーション・マネジメントはEQの視点から経営を捉えたい思いです。 序でに“コピペ思考”について言及すると、現代ではネットやCD-ROMのデータベースから検索で得た情報を自分で考えたつもりになる、いわゆるコピペ思考があります。脳は五感から情報を得るものの、ネットは視覚中心であるために、現実にある情報から自分の考えを熟成できない人が増えていますので、注意する必要があります。
最後に、“文理融合”という大学および企業動向について紹介します。 東大は06年から文科Ⅰ類から医学部へ、理科Ⅰ類から経済学部への越境を定員の5%〜30%枠で認可しました。早大やICUは教養学部に文理科目を設け、在学中にやりたい分野を探し出させています。一方、企業も従来型の文系は経営、理系は技術といった不文律から脱皮しています。文理を超える幅広い視野と複数の深い専門性を併せもつ新しい個の力が企業や社会を支えていきます。
最後に、政治の世界ですが、中国の指導者は江沢民から胡錦涛まで清華大学卆を中心とした理系出身者が占めています。彼らや官僚は有能で実務的であるものの、近い将来法律やビジネスなどを専門とする人文科学系の北京大学出身者が登用される気運があります。このことは政策面で、国内では調和社会の出現、国際社会では平和外交、台湾問題では統合を求めているからです。
村井 徹