村井徹/監査役 セイコー株式会社を退職後、経営コンサルタントに携わり、現在、当社の監査役等を務める。
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春の足音が大きく聴こえる弥生3月になりました。 春と言えば桜。都内には桜の名所と呼ばれるところがたくさんあります。日本人なら1人1人が「マイ名所」なるビューポイントを密かに持っている、そんな花が桜です。 目黒川に並行している山手通りに面したマンションの一室に会社を移したのが昭和61年の暮れ。その頃の目黒川はただのドブ川で、申し訳程度に植えられていた桜の木は、大人の腕の太さぐらいでした。 それから19年。気が付いたら目黒川の桜は都内有数の名所となっていました。 ドッグイヤーという言葉がありますが、桜も案外成熟するのが早いようです。早咲きで有名になった伊豆の河津桜も案外こんなペースであれよあれよという間に名所になったのかもしれません。 桜が見事になると川の水までがきれいになって、両岸にはお洒落な店が次々と開店し、いまや中目(ナカメ)は、都内有数のお洒落スポットに変身しつつあります。 目黒川の桜の見事さは、川幅と桜の木の枝ぶりとのバランスがよくて、対岸で向き合っている桜の枝同士がいまにも手をつなぎそうな風情をもっているところです。しかもその様を、50m前後の間隔で架かっているどの橋からも、人の視線の高さで楽しめるのが大きな魅力です。 桜の枝を目の高さで見られるというのは、考えてみればあまり例のない不思議な光景かもしれません。それは枝が川面に向かって垂れ下がっているからで、もちろん枝垂(しだれ)桜ではない証拠に、道路側は人間の頭上まで枝を伸ばしてそれ以下には下がっていません。 桜は水が好きなのだろうか? 水を求めて川面に向かうのだろうか? 都内でも有名な千鳥ヶ淵の桜も、お堀に向かって見事に枝を下げ広げています。 桜が水を好むというのは、理屈が通らない話ですから、理由は、たぶん空間のひろがりなのでしょう。ふつうの平らな土地の上では下を人が通ったりして、よくみる光景の枝ぶりになります。 この状態を180度の空間と呼べば、千鳥ヶ淵や目黒川では、地面のレベルよりはるか下のほうに湖面や川面があるため、180度+90度=270度の空間と呼ぶことができます。千鳥ヶ淵や目黒川の桜は、平らな土地に咲く桜に比べ、50%も広い270度の空間にのびのびと枝を伸ばした結果なのでしょう。 私は園芸が趣味で、日曜日には庭の手入れを楽しんでいますが、庭木を育てる場合も伸ばしたい方向に「スペース」を作ってやれば、植物は自然にその方向に枝葉を伸ばします。 社会を考えるときでも、家庭を考えるときでも、職場を考えるときでも、若い世代に伸びろ、伸びろと小言を言うよりも、サッとスペースを空けてやるのが次世代をうまく育てるコツなのかもしれません。 竹内義雄